マジカル・ガール |
「マジカル・ガール」
監督:カルロス・ベルムト
監督は脅迫を軸としたフィルム・ノワールを撮ろうと企図したのだという。白血病の少女アリシアの願いをかなえようとする父親ルイスの、心理的偏向度の強い女性バルバラに対する脅迫が、バルバラの元教師ダミアンによる四人の殺害をひきおこす。
少女の持つノートに書かれていた願いは二つだけ。一つ目は「13歳になること」。二つ目は魔法少女ユキコのコスチュームを着ること。失業中の父親ルイスが宝石店の窓を破ってでも90万円する一点もののコスチュームを手に入れようとする動機としては十分なものだと感じさせる。「煙草を吸ってみたい」「ジントニックを飲んでみたい」という娘の慎ましい願いに、父親はすでに応えているわけだから。
特徴的なことが二点ある。一点目はシーンとシーンの間をつなぐほんの少しだが長く感じる暗黒の間。日本文化に詳しい監督が意図したような「間」になっているかどうか、私には疑わしく感じたが、印象的であることは確かだ。二つ目。秘すれば花ではないが、映画の観客が持つ特権的な視座を私たちに与えないこと。バルバラを脅迫するネタとなったルイスとバルバラの偶然の出会いによる一夜の出来事も、脅迫金を作るために体中に傷を持つバルバラが入った「蜥蜴の部屋」での様子も、事後に目だけがみえる包帯をした彼女の入院姿をみればどれほどのことがおこなわれていたか想像を掻き立てられるが、いっさい描かれない。また、バルバラを救うために罪を犯して10年服役した彼女の元数学教師ダミアンが、何から彼女を救い、そのために何をしたのかということも描かれることはない。観客の欲望を拒絶した静謐さがこの作品の基本的なトーンなのだ。
バルバラの額に傷を作ることになる自罰的な鏡や、最後の数ピースを失って完成されることのないジグソーパズル、2+2は4だと繰り返す教師時代のダミアンの隠喩性など、みるべきところの多い作品だ。魔法少女ユキコの衣装をまとい、魔法のスティックを構えるアリシアの強い視線も心に残る。現実をけなげに見据える目だ。彼女は魔法の力をもとめることによって惨劇を呼び寄せ、自らに降りかかる暴力を魔法の力で阻止することもできなかったのだから。アリシアの知るよしのないことだが、この悲劇的循環こそ、監督が撮りたかったものなのだと思う。
2016年3月26日―エビスガーデンシネマ-